脱毛の基礎:第3回日本美容医療総合学会講演

みなさま、第3回日本美容医療総合学会にお越しいただきありがとうございました。
今回は「脱毛の基礎」について、解説させていただきました。

ここでは発表した内容に沿って、医療脱毛の基礎からレーザーの仕組み、機械の使い分けまで、専門的な視点からわかりやすく解説します 。これから脱毛を始めたい方や、仕組みをもっと知りたい方は必見です!

1. 脱毛の歴史:生き残るための「抜毛」から、命がけの「X線」まで

脱毛の歴史は非常に古く、紀元前3000年頃の古代エジプトにまでさかのぼります 。これ以前の脱毛は美容目的ではなく「生存と衛生」が主な目的でした 。毛に寄生虫(シラミなど)がつくのを防ぐため、あるいは接近戦の狩猟や戦いの際に敵に髪や髭を掴まれないようにするためだったのです 。
紀元前3000年のこの時代にはすでに、砂糖や蜜蝋(みつろう)を煮詰めたペーストを肌に塗り、一気に引き抜くという現代のブラジリアンワックスのような除毛が行われていました 。

日本に目を向けると、飛鳥時代(692年)には中国大陸の文化がもたらされ、上流階級の間で「引眉(ひきまゆ)」と呼ばれる、眉を抜く文化が流行しました 。

江戸時代になると庶民の間でも、軽石に木蓮の皮の粉などをつけて肌をこすり、産毛をすり減らすという手入れが一般化します 。また、髪の毛を上げて結うため、うなじの毛やおでこなどの顔の毛を剃刀で処理すると言う文化が定着しました。

そして大正時代から昭和初期にかけて、ノースリーブの洋服を着る「モガ(モダンガール)」が登場し、日本で初めての女性専用カミソリが発売されたことで「ワキ毛処理」の概念が誕生しました 。
1950年代後半にはスカートやナイロンストッキングの普及に伴い、脚のすね毛を気にする女性が急増します。

脱毛の理由
脱毛の理由としては以下の3つのことが言われています。

  1. 「無毛化規範(Hairlessness Norm)」への同調
    「女性の肌には毛がない状態が普通であり、美しい」という社会的な暗黙のルールが強く存在
     そこから逸脱することへの心理的抵抗や恥辱感
  1. 身だしなみ・エチケットとしての義務感
     個人の「おしゃれ」だけでなく、他者に対して不快感を与えないための
    「エチケット」として社会的に認識、処理をせざるを得ないという状況
  2. 同調圧力とメディアの影響
     若年層においては、母親・同級生などの「同性からの視線」による圧力や、
     幼少期から触れるメディア・美容広告によって形成された理想の身体像に近づきたいという欲求

近年では、男性の医療脱毛利用率も年々増加しており、性的魅力や清潔感の向上が理由として挙げられています 。

悲劇のトンデモ脱毛 
しかし、歴史の中では危険な脱毛法も横行しました。中世から近代にかけては、ヒ素や生石灰(せいせっかい)などの劇薬を使い、毛を化学的に腐食させて溶かす方法がとられ、化学熱傷や発がんリスクに晒されていました 。さらに恐ろしいのは、1895年のX線発見直後から始まった「X線脱毛」です 。X線を照射すると毛が抜けることがわかり、「Tricho System」などの脱毛器が商業利用されましたが、後になって皮膚がんや重篤な放射線障害(潰瘍)が相次いで報告されるという悲劇を生みました。このTricho Systemを開発した医師も最終的に指を失うこととなりました。

2. 脱毛の革命!「選択的熱融解理論」とは?

長い間「安全に毛だけを破壊する」技術は存在しませんでしたが、1983年にAnderson氏とParrish氏によって「選択的熱融解理論」が発表され、歴史が大きく動きます 。これが現在のレーザー脱毛の基礎です。

レーザー脱毛は、単純に肌を焼いているわけではありません。以下の「3つの条件」を揃えることで、周囲の皮膚を傷つけずにターゲット(毛)だけを狙い撃ちします 

  1. 標的選択的に吸収される波長を選ぶ 
    光は波長(波の長さ)によって色が決まり、特定の物質に吸収されやすい性質があります 。レーザー脱毛では、700〜1100nmの波長を使います 。この波長は「黒い色素(メラニン)」にしっかり反応しつつ、肌の奥まで光が届くため、毛を狙うのに最適なのです 。
  2. 熱緩和時間(TRT)より短いパルス幅 
    TRTとは、温まった物質が元の半分の温度まで冷める(熱が周りに逃げる)のにかかる時間のことです 。薄い皮膚はすぐに冷めますが(TRTが短い)、太い毛はなかなか冷めません(TRTが長い) 。レーザーを照射する時間を毛のTRTよりも短くすることで、熱が周囲の皮膚に逃げる前に、毛根の中だけにダメージを与えることができます 。
  3. 破壊閾値を超えるフルエンス(エネルギー) 
    ターゲットを壊すのに十分なエネルギーを与え、毛の温度を70〜100℃まで急上昇させて毛包の細胞を消失させます 。

3. 毛を作る工場(ターゲット)と、毛周期の壁

レーザーが破壊すべき「毛を作る工場」は、皮膚の中に2箇所あります 

  • ターゲットA:バルジ領域(浅部) 
    毛の幹細胞が存在する「司令塔」です 。ここから毛の元となる細胞が作られ、底へと送り込まれます 。
  • ターゲットB:毛乳頭・毛母細胞(深部) 
    毛細血管から栄養を取り込み、実際に毛を製造する「現場」です 。

なぜ何度も通う必要があるの? 
それは「ヘアサイクル(毛周期)」があるからです 。毛には、活発に伸びる「成長期」、毛包が縮む「退行期」、眠っている「休止期」があります 。 レーザーが効果を発揮するのは、メラニンが濃く、毛が毛母細胞などの幹細胞としっかり密着している「成長期」だけです 。退行期や休止期は、毛がターゲット組織から離れてしまったり、メラニン色素が欠乏していたりするため、レーザーの熱が伝わらず効果がありません 。 実は、1回の照射で破壊できる成長期の毛は全体のわずか10〜25%程度 。そのため、期間を空けて複数回照射を繰り返すことが必須となります 。
休止期の毛はメラニンが少なく、ターゲットへの物理的な距離も離れているためレーザーが効きません 。1回の照射で破壊できる毛は10〜25%程度のため、脱毛には複数回の施術が必須となります 。

Wei-Hung Wang et al: Journal of Investigative Dermatology Volume 143, Issue 9, September 2023, Pages 1638-1645

4. レーザー機械の種類と選び方

医療脱毛の機械は、主に光の「波長(レーザーの種類)」と「エネルギーの伝え方(照射方式)」で分かれます 。波長が短いほど浅く強く吸収され、波長が長いほど深くまで穏やかに届くというルールがあります 

【3つの主なレーザー(波長)】

  • アレキサンドライト(755 nm):日本のクリニックで最も普及している標準機 。黒い毛や標準的な肌色に最適ですが、日焼け肌や色黒肌には不向きです 。痛みは中〜強 。
  • ダイオード(810 nm):バランス型 。メラニンの影響を受けにくく幅広い肌色に対応でき、産毛から深い毛まで対応しやすいのが特徴です 。痛みは弱〜中 。
  • Nd:YAG(1064 nm):一番波長が長く、深部まで届く職人タイプ 。色黒肌でも安全に照射でき、ヒゲやVIOなどの深い太毛に強いですが、痛みが最も強いのが難点です 。

【2つの照射方式】

  • 熱破壊式(シングルショット):単発の高出力で一気に破壊閾値を超え、毛母細胞(深部)を狙います 。輪ゴムで弾かれたような痛みがあります 。
  • 蓄熱式:低出力の連射で徐々に熱を蓄え、バルジ領域(浅部)を狙います 。じんわり温かい程度の痛みです 。

5. 医療脱毛の合併症リスクと、患者様へのお願い

医療脱毛は高い効果がある反面、医療行為であるため合併症のリスクもゼロではありません 。主に以下の3つが挙げられます。

  1. 熱傷(やけど)・色素脱失 日焼けした肌や、出力が高すぎる場合に、皮膚表面に熱が過剰に加わることで発生します 。発赤や水疱、ヒリヒリとした灼熱痛を伴います 。
  2. 毛嚢炎(もうのうえん) 照射後1〜3日後に起こる毛穴の炎症で、ニキビのようなポツポツができます 。レーザーによる肌バリア機能の低下と細菌の侵入が原因ですが、通常は清潔を保つことで1週間程度で自然に治ります 。
  3. 硬毛化(こうもうか) 脱毛したはずの産毛が、逆に太く濃くなってしまう逆説的な現象です 。機序は完全には解明されていませんが、毛への不十分な熱照射が毛包を活性化させてしまうためと推測されています 。20〜30代の若年層で、うなじ・二の腕・肩回りなどに起こりやすいとされています 。

【絶対に守ってほしい3つのルール】 安全に、そして確実に効果を出すために、以下のことを必ず守ってください。

  • 絶対に日焼けをしない :日焼けした肌にレーザーを当てると、皮膚表面のメラニンで熱が爆発してしまい、大やけどの原因になります 。施術の前後2週間は徹底的に紫外線を避けましょう 。
  • 絶対に毛を抜かない :毛はレーザーの熱を毛根に伝える「導火線」の役割を果たします 。抜いてしまうとレーザーが効きません 。自己処理はカミソリや電気シェーバーを使いましょう 。
  • 徹底的に保湿をする :「保湿を制する者は脱毛を制す」と言われるほど重要です 。乾燥肌は脱毛における最大の隠れた敵です 。肌が乾燥していると、痛みが強くなるだけでなく、熱傷や色素沈着のリスクが跳ね上がります 。日頃からの朝晩の保湿ケアを心がけてください 。

「細胞を破壊する」脱毛行為は、医師法第17条に基づき医療機関(医師の管理下)でのみ許可されている医療行為です 。原理をしっかりと理解し、信頼できるクリニックで安全にツルツルな肌を手に入れましょう!

この記事を書いた人

吉田 有希(Yuuki Yoshida) 形成外科専門医 / 美容外科(JSAPS)専門医
THE CLINIC 東京院 / BUST CLINIC / 埼玉医科大学 形成外科・美容外科

【経歴・人物】 日本専門医機構認定形成外科専門医。 現在はTHE CLINIC Tokyoにて、脂肪吸引・脂肪注入を中心としたボディデザイン診療を行う。

医師として臨床現場に立つ傍ら、「医学的に正確で、患者様が理解しやすい医療コンテンツ」の不足に課題を感じ、曖昧なネット情報に惑わされる患者様を減らすため、医学論文(一次情報)に基づいたエビデンスベースの発信を徹底している。

【保有資格・所属学会】

  • 日本専門医機構認定 形成外科専門医
  • 日本美容外科学会(JSAPS)専門医
  • VASER認定医

【専門分野】

  • 形成外科全般
  • 脂肪吸引・脂肪注入(豊胸・エイジングケア)
  • 医療ダイエット・肥満症治療管理
  • 医療論文解説

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