
最近、成長因子を使用した美容医療に関する訴訟があり、現在ホットトピックの一つがこのFGFと呼ばれる成長因子かと思います。こういったニュースによって成長因子で若返る、肌が再生する、ヒアルロン酸に変わるフィラーといった触れ込みで、FGF(Fibroblast Growth Factor:線維芽細胞増殖因子)を注入したあと、不安になっている方は少なくありません。
しかし、FGFの創傷治癒の有用性は医療領域で報告がある一方、美容目的の皮内・皮下への注入は合併症報告が増えており、私はおすすめしません。
僕は日本一FGF製剤を使用している大学病院形成外科に勤務していました。その僕が、FGFの歴史から医学的にわかっている作用、実際に報告されている合併症、そして「様子見でよいケース/受診が必要なケース」まで、一次情報(査読論文)を根拠に整理します。
なぜおすすめしないの?—FGFは“組織を増やす”スイッチ
FGFとは?:1970年代に細胞を増やす因子として同定
FGFは、もともと線維芽細胞などの増殖を促す因子として報告されました。古典的には、Gospodarowiczが3T3細胞の増殖を促す因子として報告された論文が出発点の一つです。(1)。
FGFはその後、創傷治癒過程に関与する重要なサイトカイン(情報伝達物質)として研究が進みました。
日本では科研製薬がbFGF(basal fibroblast growth factor:トラフェルミン)を含有するフィブラストスプレーを2001年に発売しました。
FGFは承認用途が“創傷領域”中心
このbFGF製剤(例:トラフェルミン)は、医療用医薬品として褥瘡・皮膚潰瘍などの治療目的で承認されています。承認とは、合併症・効果などをしっかり調べたのちにされるもので、この褥瘡・皮膚治療に対しては一定の効果があることが証明されています。
一方で、美容目的の皮内・皮下への注入は承認適応外(合併症や効果が不明確)です。
創傷治癒におけるFGFの役割
創傷治癒では、炎症期→増殖期→リモデリング期と進み、線維芽細胞・血管内皮細胞・角化細胞などが動員されます。FGFこれらの細胞の増殖や遊走、血管新生(angiogenesis)を後押しし、肉芽形成を促進することが報告されています。(2)
抗線維化作用も報告されているが特殊な条件が必要
ここまでの話では線維化を促進しそうなFGFですが、肥厚性瘢痕モデルにおいて線維を溶かす酵素であるMMP-1を増やし、線維化環境を調整する可能性が示唆されています(3)。さらに、FGFは線維化を促進する指令物質、TGF-βを拮抗することで抗線維化作用を示す可能性があると報告されています(4)。
しかしこれらは制御された環境での治療応用に基づくものであり、
美容目的の注入と同列には扱えません。
入れてしまった・・・いつまで様子見すべき?
注入系FGFトラブルは注入後、しばらくしてから出ることが多いです。(5)
①科学的裏付けが比較的はっきりしている点
美容目的の外因性の成長因子(exogenous growth factor)注入について、Aesthetic Plastic Surgeryの症例集積(65例)では、全例が少なくとも6か月以上の病歴を有していたと記載されています。つまり、時間が経ってから症状が顕在化し、遅れて受診しています。(5)
②科学的裏付けがが限定的な点
FGFを入れた後のしこりは何ヶ月で治る?という問いに、自然経過だけで改善する時期を一般化した強いエビデンスは乏しいです。上記の症例集積でも、多くは注射治療や手術治療(切除等)を要しています。
実際の経過と目安
- 術後1ヶ月:赤み・腫れ・違和感は「注入刺激」や炎症で出ることはありますが、増殖性変化の本格化はこの時点では判断が難しいことがあります(※ただし急速な悪化は別)。
- 術後3ヶ月:しこり・硬結・皮膚の引きつれが増えてくる/範囲が広がる場合は要注意。
- 術後6ヶ月:上記症例集積では受診時点で6ヶ月以上の病歴が多く、この辺りで発症が生じる場合があります。
FGF既往部位に脂肪注入を行った場合のリスク?
実臨床では、FGFを注入した部位に脂肪注入し、しこりが増悪した方の相談を受けることが多々あります。
医学的には
- FGFは線維芽細胞増殖・血管新生を促進することが知られている(2,4)
- 脂肪注入は炎症反応を伴う処置である
という点を踏まえると、既に異常増殖傾向がある組織に再度刺激を加えることが理論的にリスクとなる可能性は否定できません。
詳細なエビデンスがなく、医学的に結論を完全に出すことは難しいですが、私は
FGF注入既往部位への脂肪注入は慎重に判断すべき
と考えています。
保存的対応・治療法
マッサージ:悪化させる可能性もある
しこり部位を強く揉むと、炎症が増えたり、皮膚が薄い部位では色素沈着・皮膚障害のリスクもあり得ます。痛みが増す・赤くなる・熱感が出るなら中止が安全です。
合併症への対応(文献報告)
文献では以下の治療が行われています(5)。
・副腎皮質ステロイド+5-FU局所注射
・ボツリヌストキシン注射
・ヒアルロニダーゼ(混和が疑われる場合)
・吸引、切除
ただし、これは「こういう治療が行われた」という報告であり、すべてのケースに同じ効果を保証するものではありません(皮膚の層・成分・量・経過で変化する)。
修正治療が必要になるケース
放置すべきでない所見(受診推奨)
次の所見があれば、早めに専門医の診察をおすすめします。(5)
- 範囲が広がる皮下組織の肥厚/異常な増殖
- 硬いしこり(硬結)、触ると「筋状」「結節状」に触れる
- 皮膚の赤み・過敏・かゆみが持続
- 潰瘍化、膿排出、強い痛み(感染合併の可能性)
論文では、初期症状として顔の紅潮、過敏、かゆみ、皮下組織肥厚、異常増殖、硬いしこりが挙げられ、進行すると機能障害、果てには潰瘍化や感染・膿の排出まで至り得ると記載されています。
修正治療の選択肢(文献で行われたもの)
経過や病変の大きさ・部位に応じて、ステロイドなどの局所注射だけで済む例と、注射に反応しないため手術(吸引、切除、感染した場合はデブリードマン)が必要になる例が報告されています。手術検体は病理提出され、巨細胞反応などが記載された症例もあります。
「急がない方が良い理由」もある
ただし、何でも即手術が正解とは限りません。
炎症が強い時期に大きく切ると、瘢痕・陥凹・色調変化が残りやすく、修正が複雑になります。超音波などで層を確認し、炎症を落ち着かせながら段階的に治療するほうが整容的に有利なことがあります。
よくある質問(FAQ)
- QFGFはそもそも危険な成分ですか?
- A
FGF自体は創傷治癒に関与する生体内の因子で、外用薬として医療で使われてきた経緯があります。 ただし、美容目的の注入は承認用途の範囲外で、合併症報告もあるため、同じ安全性として扱えません。
- Q「成長因子注射」でしこりが出ました。放置すると治りますか?
- A
自然に落ち着くケースも否定はできませんが、報告例では長期化して受診し、注射治療や手術を要した例が多くあります。少なくとも悪化傾向なら早めの評価が安全です。
- Qヒアルロン酸と混ぜてあると言われました。対応は変わりますか?
- A
報告例では、混和が疑われるケースでヒアルロニダーゼを使用する手順が記載されています。ただし混和の真偽や層によって変わるので、自己判断でなく医療機関での評価が必要です。
- Qがんのリスクが心配です。FGFは腫瘍と関係ありますか?
- A
一般論としてFGF/FGFRは腫瘍領域で研究が進んでおり、承認文書でも悪性腫瘍リスクへの注意喚起がなされています。 ただし美容注入でがんになると断定できるエビデンスは限られ、ここは過度に恐怖を煽らず、不要な使用を避けるという予防原則が現実的です。
- Q受診するとき、何科が良いですか?
- A
顔のしこり・潰瘍・感染が疑われる場合は、形成外科または皮膚科が一般的です。超音波で層を確認し、必要に応じて病理評価まで含めた対応ができる施設が望ましいです。
まとめ
FGFは医療の創傷領域で有用性が示される一方、美容目的の注入は合併症報告があり、長期化・手術介入に至ることもあります。私は美容目的のFGF注入はおすすめしません。不安があれば早めに専門医へ相談してください。
この記事を書いた人
吉田 有希(Yuuki Yoshida) 形成外科専門医 / 美容外科(JSAPS)専門医
THE CLINIC 東京院 / BUST CLINIC / 埼玉医科大学 形成外科・美容外科
【経歴・人物】 日本専門医機構認定形成外科専門医。 現在はTHE CLINIC Tokyoにて、脂肪吸引・脂肪注入を中心としたボディデザイン診療を行う。
医師として臨床現場に立つ傍ら、「医学的に正確で、患者様が理解しやすい医療コンテンツ」の不足に課題を感じ、曖昧なネット情報に惑わされる患者様を減らすため、医学論文(一次情報)に基づいたエビデンスベースの発信を徹底している。
【保有資格・所属学会】
- 日本専門医機構認定 形成外科専門医
- 日本美容外科学会(JSAPS)専門医
- VASER認定医
【専門分野】
- 形成外科全般
- 脂肪吸引・脂肪注入(豊胸・エイジングケア)
- 医療ダイエット・肥満症治療管理
- 医療論文解説
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参考文献
- Gospodarowicz D. Localisation of a fibroblast growth factor and its effect alone and with hydrocortisone on 3T3 cell growth. Nature. 1974. May 10;249(453):123-7
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/4364816/ - Abdelhakim M, Lin X, Ogawa R. The Japanese Experience with Basic Fibroblast Growth Factor in Cutaneous Wound Management and Scar Prevention. Drugs R D. 2020.Jun 6;10(4):569–587.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7367968/ - Eto H et al. Therapeutic potential of fibroblast growth factor-2 for hypertrophic scars. Lab Invest. 2012.Feb;92(2):214-23.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21946856/ - Dolivo DM et al. Fibroblast Growth Factor 2 as an Antifibrotic. J Cell Physiol. 2017.Dec:38:49-58.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28967471/ - Long J et al. Complications of Injected Exogenous Growth Factor for Cosmetic Facial Rejuvenation. Aesthetic Plast Surg. 2024.Feb;48(3):440-450.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37770636/ - PMDA Report on the Deliberation Results (Trafermin).
https://www.pmda.go.jp/files/000223081.pdf - FIBLAST Spray Drug Information.
https://www.rad-ar.or.jp/siori/english/search/result?n=35276


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