
脂肪吸引で一気に痩せたいけれど、太っているから断られないか心配

BMIが高いと手術のリスクが上がると聞いたけれど本当?
このような不安を抱えてカウンセリングに来られる患者様は少なくありません。
実際脂肪吸引は「体重を減らす手術(減量手術)」ではなく、「ボディラインを整える手術(体形矯正)」です。そのため、命に関わるリスクは避けるべきであり、BMI(Body Mass Index)が高い場合、安全性と仕上がりの観点から手術をお断りする、あるいは先に減量をお願いするケースがあります。
本記事では、なぜBMIが高いと脂肪吸引のリスクが上がるのか、医学的根拠に基づき、形成外科専門医が解説します。
BMIと脂肪(内臓脂肪と皮下脂肪)について
残念なことに、脂肪吸引で除去できるのは「皮下脂肪」のみであり、「内臓脂肪」は取れません。
しかしBMIが高い(特に30以上)の方の多くは、皮下脂肪だけでなく内臓脂肪も蓄積している傾向があります。医学的研究において、大量の脂肪吸引を行っても、心血管代謝リスク(インスリン感受性や炎症マーカーなど)は改善しないことが示されており、脂肪吸引でメタボリックシンドロームは改善しません。
【エビデンス】 2004年の New England Journal of Medicine に掲載されたKleinらの研究では、腹部の脂肪吸引により大量の皮下脂肪を除去しても、肥満に伴う代謝異常(糖尿病リスクなど)は改善しなかったと報告されています[1]。これは、代謝リスクに悪影響を与えているのは主に内臓脂肪であるためです。
つまり、健康のために痩せたいという目的で脂肪吸引を行うことは医学的には難しいです。
よく腹囲で検診に引っかかったから脂肪吸引をしたいという相談がありますが、その方に脂肪吸引を行っても何も解決にはなっていません。
BMIが高いとなぜ危険なの?
BMIが高い患者への脂肪吸引は、通常よりも合併症のリスクが高まることが複数の論文で示唆されています。
1. 静脈血栓塞栓症(VTE)のリスク 最も警戒すべきは、足の静脈に血の塊ができ、それが肺に飛ぶ「肺塞栓症(エコノミークラス症候群)」です。 Aesthetic Surgery Journal 誌に掲載された25,000人以上を対象とした大規模研究によると、BMIの上昇は静脈血栓塞栓症や感染症の独立した危険因子であり、特にBMIが30を超える場合リスクが有意に上昇するとされています[2]。
2. 感染症と創傷治癒遅延 肥満は手術後の感染リスクや、傷の治りが悪くなるリスクを高めます。皮下脂肪が厚いと、手術操作の難易度が上がり、手術時間が長くなることも一因です。
【エビデンス】 同上のKaoutzanisらの研究(2015)では、BMI 30以上の患者において、脂肪吸引後の感染症(外科部位感染)のリスクが増加することが統計的に示されています[2]。
吸引量の限界(5リットルの壁と安全性)
「一度にできるだけたくさん吸ってください」と希望されることがありますが、安全性には明確な限界があります。
米国形成外科学会(ASPS)の安全性ガイドラインでは、5,000ml(5リットル)を超える脂肪吸引を「Large-volume liposuction(大量脂肪吸引)」と定義しており、これを超える場合は入院管理を含めた慎重なモニタリングが必要とされています[3]。
BMIが高い方は体表面積も大きいため、バランスよく吸引しようとすると容易にこの5リットルのラインを超えてしまいます。 さらに Plastic and Reconstructive Surgery 誌の研究では、BMIが高い患者ほど、吸引量が増えた際のリスク管理(体液バランスの変動など)が難しくなることが示唆されています[4]。
「外来手術(日帰り)での安全圏」を守るためには、BMIや吸引量に制限を設けざるを得ないのが実情です。
適応となるケース・ならないケース
医学的に推奨される判断基準は以下の通りです。
【良い適応(手術が推奨されるケース)】
- BMIが標準範囲(18.5〜25程度)、あるいは軽度肥満(〜29.9)である
- 食事や運動で体重は落ちたが、特定の部位(お腹、二の腕、太もも)の脂肪だけが落ちない
- 体重の変動が安定している
- 内科的に健康
【慎重な判断・減量が優先されるケース】
- BMIが30以上(特に35以上は原則として減量指導を優先)
- 内臓脂肪型肥満(お腹が太鼓のようにパンパンに張っているタイプ)
- 全身の皮膚が極度にたるんでいる
- 糖尿病、メタボリックシンドロームなどの基礎疾患がある
無理な脂肪吸引は、術後の皮膚のたるみや凹凸、重大な事故につながる可能性があります。「急がば回れ」で、まずは内科的なアプローチや生活習慣の改善でBMIを30以下に落としてからの方が、結果的に美しく安全に仕上がります。
よくある質問(FAQ)
Q1:BMIが30を超えていますが、絶対に手術できませんか?
A1: 絶対ではありませんが、リスクが高まります。クリニックの設備(入院施設の有無、麻酔科医の常駐など)や医師の方針によりますが、安全を最優先する場合、まずは少し減量していただくことをお勧めすることが多いです[2][4]。
Q2:脂肪吸引をすれば、リバウンドしなくなりますか?
A2: 脂肪細胞の数自体は減るため、施術部位は太りにくくなります。しかし、暴飲暴食を続ければ残った脂肪細胞が肥大化したり、内臓脂肪が増えたりして、全体の体型は崩れます。
Q3:一度に全身の脂肪を吸引できますか?
A3: 体への負担(出血、麻酔薬の中毒量など)を考慮し、複数回に分けるのが一般的です。大量の脂肪を一度に吸引することは合併症リスクを高めるため、推奨されません[3][4]。
Q4:脂肪吸引で体重は何キロ減りますか?
A4: 脂肪は水より軽いため(比重約0.9)、例えば3000cc吸引しても、体重の減少は2〜2.5kg程度です。創傷治癒によって新たに作られる組織の重さも加算されるので、見た目の変化(サイズダウン)は大きいですが、体重計の数値を減らす目的には適していません。
Q5:100kgあっても脂肪吸引で痩せられますか?
A5: 100kgある場合、まずは食事療法や運動、場合によっては減量外科手術(胃の縮小など)が適応になる可能性があります。脂肪吸引はその後、痩せきれなかった部分を整える仕上げとして行うのが理想的です。代謝改善効果は脂肪吸引には期待できないためです[1]。
まとめ
脂肪吸引は魔法の痩身術ではなく、医学的な「手術」です。 BMIが高い状態での無理な手術は、血栓症や感染症などの重大なリスクを伴います。また、エビデンスに基づけば、脂肪吸引は代謝改善(健康目的の減量)には寄与しません[1]。
「自分は適応なのか?」「まずは痩せるべきか?」と迷われた際は、ご自身の体の安全を守るためにも、脂肪吸引の専門ドクターにご相談ください。適切な順序での治療をご提案します。
参考文献
[1] Klein S, et al. Absence of Effect of Liposuction on Insulin Action and Risk Factors for Coronary Heart Disease. N Engl J Med. 2004;350:2549-2557.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15201411/
[2] Kaoutzanis C, et al. Complications of Liposuction: An Analysis of 25,123 Patients. Aesthet Surg J. 2015;35(7):841-855.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28430878/
[3] Haeck PC, et al. Evidence-Based Patient Safety Advisory: Liposuction. Plast Reconstr Surg. 2009;124(4 Suppl):28S-44S.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20827238/
[4] Chow I, et al. Is There a Safe Lipoaspirate Volume? A Risk Assessment Model of Liposuction Volume as a Function of Body Mass Index. Plast Reconstr Surg. 2015;136(3):474-483.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26313819/
この記事を書いた人
この記事を書いた人
吉田 有希(Yuki Yoshida) 形成外科専門医 / 美容外科(JSAPS)専門医
THE CLINIC 東京院 / BUST CLINIC / 埼玉医科大学 形成外科・美容外科
【経歴・人物】 日本専門医機構認定形成外科専門医。 現在はTHE CLINIC Tokyoにて、脂肪吸引・脂肪注入を中心としたボディデザイン診療を行う。
医師として臨床現場に立つ傍ら、「医学的に正確で、患者様が理解しやすい医療コンテンツ」の不足に課題を感じ、曖昧なネット情報に惑わされる患者様を減らすため、医学論文(一次情報)に基づいたエビデンスベースの発信を徹底している。
【保有資格・所属学会】
- 日本形成外科学会認定 形成外科専門医
- 日本美容外科学会(JSAPS)専門医
- VASER認定医
【専門分野】
- 形成外科全般
- 脂肪吸引・脂肪注入(豊胸・エイジングケア)
- 医療ダイエット・肥満症治療管理
- 医療論文解説
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