顔の脂肪吸引を検討する際、「糸リフト(スレッドリフト)も一緒にやった方がいい」と提案され、迷う方は少なくありません。「本当に必要なのか?」「商業的なアップセル(単価アップ)ではないか?」と思う方も多いかと思います。
しかし、糸リフトを併用した方が満足度が高い方というのがいらっしゃいます。特に、中等度以上の皮下脂肪があり、かつ皮膚の弾力性が低下している場合、脂肪吸引と糸リフトの併用が最もおすすめです。 逆に、若年者で皮膚の弾力が強く、脂肪量が軽度の場合は、必ずしも併用は必須ではありません。その理由を、形成外科・美容外科の歴史と実際の論文データを紐解きながら解説します。
1. 歴史的背景:技術の進化と「併用」の必要性
まず、この二つの技術がどのように発展してきたかを知ることで、なぜ現在「併用」がおすすめなのかが見えてきます。
脂肪吸引の変遷
脂肪吸引は、1977年にフランスのIllouzらが「カニューレを用いた吸引法(Suction-Assisted Lipectomy)」を報告したことから本格的に普及しました[1]。その後、1987年にJeffrey Kleinが「Tumescent technique(局所麻酔液を大量に皮下に注入し、出血を抑えながら吸引する方法)」を確立し、安全性が飛躍的に向上しました[2]。これにより、顔面のような繊細な領域へのアプローチが可能になりました。
糸リフトの変遷と融合
一方、糸リフト(スレッドリフト)は、1990年代後半にSulamanidzeらが「Aptos Suture(コグ付きの糸)」を開発したことが近代的な糸リフトの始まりとされています[3]。
当初はそれぞれ独立した手技でしたが、2000年代に入り、「脂肪を除去した後の『空洞』をどう管理するか」という課題に対し、糸リフトによる組織の固定が有効であるという概念が広まり、Aesthetic Plastic Surgery などの主要ジャーナルで併用療法の有効性が議論されるようになりました。
2. 脂肪吸引と糸リフトを組み合わせるとなぜ良いのか?
「脂肪を取る」と「糸で上げる」を組み合わせるメリットは、単に「足し算の効果」だけではありません。「創傷治癒(キズが治る仕組み)」を利用した相乗効果があるからです。
① デッドスペースの閉鎖と皮膚収縮(Skin Retraction)
脂肪吸引を行うと、皮膚と筋肉の間にあった脂肪がなくなり、デッドスペース(空洞)ができます。
- 悪い治り方: 重力に負けて皮膚が下がった状態で空洞が埋まると、皮膚はたるんだ位置で癒着します。
- 良い治り方: 糸リフトで皮膚を正しい位置(高い位置)に固定した状態で治癒過程に入ると、組織はその位置で「癒着(Adhesion)」を起こします。さらに、創傷治癒に伴う「皮膚収縮(Skin Retraction)」が適切に働き、引き締まった輪郭が形成されます。これは糸リフトが溶けてなくなっても持続します。
② 内部スプリント(添え木)とスカフォールド効果
脂肪吸引後の不安定な組織において、糸は物理的な固定だけでなく、「スカフォールド(足場)」[10]と呼ばれる役割を果たします。これは、糸の周囲に線維芽細胞が集まり、自己コラーゲンが網目状に構築されるための構造的ガイドとなることを意味します。この「足場」に沿って組織が再構築(Remodeling)されることで、糸が吸収された後も長期的なタイトニング効果が維持されます。
3. エビデンス(論文・統計・ガイドライン)
実際に「併用」はどれほど効果があるのか、また「どの部位」に効くのか。
最新の知見を含めた6つの論文をもちいて説明します。
❶ 脂肪が多い人ほど「併用」が有利
研究デザイン: 比較試験(エジプト)[4]
対象: 顎下脂肪の脂肪吸引単独群 vs 脂肪吸引+糸リフト併用群
この研究では、患者を「脂肪の量」で分類し、術後の満足度等を評価しています。
- 脂肪量が多い群: 併用群の方が、顎下の輪郭(Cervicomental angle)、皮膚のたるみ改善度において有意に高い評価を得ました。
- 脂肪量が少ない群: 併用しても満足度や結果に大きな差は見られませんでした。
【解説】 脂肪が多い=吸引後に皮余りが生じやすい、ということです。この「余った皮」を処理するために糸リフトが機能したことを示唆しています。
❷ 糸リフト単独よりも「脂肪吸引併用」が高評価
研究デザイン: 後方視的比較研究(韓国)[5]
対象: 糸リフト単独群 vs 脂肪吸引+糸リフト併用群
「糸リフトだけで小顔になりたい」という要望に対し、この論文はその限界を示しています。
- 結果: 糸リフト単独よりも、脂肪吸引を併用したグループの方が、患者の主観的満足度および医師の客観的評価が明らかに高い結果となりました。
【解説】 重たい荷物(脂肪)を持ったまま持ち上げようとしても、糸にかかる負担が大きく効果が出にくいということです。荷物を減らして(脂肪吸引)から持ち上げる(糸リフト)方が、理にかなっています。
❸ 口角横の膨らみ(ジョールファット)には「併用」が最適解
研究デザイン: 後方視的コホート研究(中国)[7]
検証内容: いわゆる「ポニョ」と呼ばれる口角外側の隆起(Perioral mound / Jowl fat)に対し、併用療法を行った326例の長期経過を分析。
- 結果: 95%以上の患者が術後の輪郭改善に「満足」と回答。特に、「脂肪吸引単独で起こりうる、口角部分の皮膚の垂れ下がり(DimplingやSagging)が見られなかった」という点が重要です。
【解説】 口横の脂肪は重力を受けやすく、単に脂肪を抜くだけでは皮膚が余って「しぼんだ風船」のようになったり、「ブルドッグ顔」と言われる口横のたるみが残りがちです。吸引直後に糸で引き上げることで、平坦で滑らかな口周りが作れることを証明しています。
❹ 数値が示すリフトアップ効果
研究デザイン: 比較検討試験[8]
検証内容: 下顔面の若返りにおいて、併用療法がどれほど顔の表面積(Surface area)を減少させるかを計測。
- 結果: 脂肪吸引と糸リフトを併用したグループは、術後の顔面表面積が有意に減少し、下顎のラインが鮮明化しました。
【解説】 顔が小さくなるということは、物理的な表面積が減るということです。脂肪を減らす(体積減)と糸で畳み込む(面積減)を同時に行うことで、幾何学的にも小顔効果が最大化されることが示されています。
❺ 熱エネルギーとの相乗効果(レーザー脂肪吸引+糸リフト)
研究デザイン: 臨床研究(韓国)[9]
検証内容: レーザーによる脂肪溶解(Laser-assisted liposuction)を行った直後に糸リフトを挿入する手法の評価。
- 結果: レーザーの熱作用による皮膚の引き締め(Thermal Tightening)と、糸による物理的な挙上効果が組み合わさることで、重度のたるみを持つ症例でも良好な結果が得られました。
【解説】 吸引だけでなく「熱で引き締める」要素を加えたハイブリッド治療です。特に皮膚の弾力が低下し始めている30代後半〜40代の方にとって、熱エネルギーデバイスの併用は強力な武器になります。
❻ 脂肪吸引直後の「糸の保持力」は変わらない
研究デザイン: 死体(Cadaver)を用いた生体力学的研究[6]
検証内容: 脂肪吸引後の組織に糸を入れた場合、糸が抜ける力(保持力)は弱まるか?
- 結果: 脂肪吸引を行っても、行わなくても、糸を引き抜くのに必要な力に有意差はなかった。
【解説】 「脂肪吸引で組織がスカスカになると、糸が引っかかりにくくなるのでは?」という懸念に対する安心材料です。
4. 例外・注意点
すべての症例で併用が正解ではありません。専門医として、以下のケースでは注意が必要です。
- 皮膚が極端に薄い方: 糸の凹凸が表面に見えたり、吸引による不整が生じたりするリスクが高まります。
- 重度の皮膚弛緩(たるみ)がある方: 60代以降などで皮膚が著しく余っている場合、脂肪吸引と糸リフトだけでは皮膚を収縮させきれません。この場合は「フェイスリフト(切開手術)」が第一選択となります。
- 脂肪がほとんどない方: 脂肪吸引の操作自体が神経損傷のリスクを高めるため、適応となりません。
合併症リスク:
- 神経障害: 顔面神経(特に下顎縁枝)の一時的な麻痺。
- 拘縮(ひきつれ): ここで言う拘縮は「瘢痕拘縮」という病的状態を指します。治癒過程で組織が硬くなりすぎ、凹凸や運動制限が出ることがあります。適切なマッサージ等で改善を目指します。
まとめ:あなたの場合はどうするべきか
論文データと臨床経験を総合すると、以下の指針が導き出されます。
- 「脂肪が多い」または「皮膚のたるみが心配」な方 → 脂肪吸引+糸リフトの併用を強くおすすめします。術後の皮膚のたるみを予防し、リフトアップ効果を最大化します[4][5][7]。
- 「脂肪が少ない」または「皮膚の弾力が十分にある若年層」の方 → 脂肪吸引単独でも良好な結果が得られる可能性があります。無理に糸を入れる必要はありません[4]。
- 「たるみだけが強い」方 → 脂肪吸引ではなく、糸リフト単独、あるいは切開リフトを検討すべきです。
セルフチェック: ご自身の顔の脂肪をつまんでみてください。厚みが1cm以上(=脂肪が多い)あり、かつ皮膚を引っ張ったときによく伸びる(柔らかくてたるみやすい)場合は、併用の恩恵を最も受けられるタイプです。
まずは、ご自身の状態がどの状態に当てはまるか、専門医のカウンセリングで診断を受けることをお勧めします。
5. よくある質問(FAQ)
一般の患者様から頻繁にいただく質問に対し、医学的な観点から回答します。
Q1. 糸リフトは溶ける糸と溶けない糸、どちらが良いですか? 脂肪吸引との併用においては、溶ける糸(PDOやPCLなど)が推奨されます。理由は、脂肪吸引後の組織癒着が完成すれば、異物である糸自体は体内に残る必要がないからです。永久に残る糸は、将来的な感染リスクや、加齢による皮膚菲薄化で糸が浮き出るリスクがあります。
Q2. 糸リフトを併用するとダウンタイムは長くなりますか? 理論上は侵襲(ダメージ)が増えますが、実際にはダウンタイムが短く感じられることが多いです。糸リフトによって剥離した皮膚が圧迫固定されるため、皮下出血や血腫(血の溜まり)が広がりにくくなるためです。
Q3. 一度手術すれば一生持ちますか? 脂肪細胞の数自体は減るため、太りにくくはなります(リバウンドしにくい)。しかし、「加齢によるたるみ」は止まりません。脂肪吸引+糸リフトはあくまで「時計の針を戻し、たるみにくい土台を作る」手術であり、永久的な老化防止を保証するものではありません。
参考文献
- [1] Illouz YG. Body contouring by lipolysis: a 5-year experience with over 3000 cases. Plast Reconstr Surg. 1983;72(5):591-597.
- [2] Klein JA. The tumescent technique for liposuction surgery. Am J Cosmetic Surg. 1987;4:263-267.
- [3] Sulamanidze MA, et al. Removal of facial soft tissue ptosis with special threads. Dermatol Surg. 2002;28(5):367-371.
- [4] Hassan MSM, et al. Does Combine Thread Lifting with Liposuction Achieve Superior Outcomes Over Liposuction Alone for Neck Lipodystrophy? Egypt J Plast Reconstr Surg. 2021;45(2):71-79.
- [5] Bae KI, et al. Minimally invasive facial rejuvenation combining thread lifting with liposuction: A clinical comparison with thread lifting alone. Arch Aesthetic Plast Surg. 2019;25(2):52-57.
- [6] Lee YW, et al. Does Simultaneous Liposuction Adversely Affect the Outcome of Thread Lifts? A Preliminary Result. Aesthetic Plast Surg. 2018;42(4):1151-1156.
- [7] Wang Y, et al. Perioral Mound Liposuction Combined with Thread Lifting for Rejuvenation of the Lower Face. Aesthetic Plast Surg. 2023;47(4):1380-1387.
- [8] Li Y, et al. Clinical Efficacy of Facial Liposuction Combined With Absorbable Thread Lifting for Rejuvenation of the Lower Face. J Craniofac Surg. 2022;33(4):1158-1162.
- [9] Kang SH, et al. Laser-assisted liposuction followed by thread lifting for the definition of the lower facial contour. J Cosmet Dermatol. 2021;20(7):2111-2116.
- [10] Fundarò S, et al. Absorbable Soft Tissue Suspension Threads: Review of the Literature and Clinical Experience. Aesthet Surg J. 2019;39(Supplement_3):S107-S114.
この記事を書いた人
吉田有希(Yuki Yoshida) 形成外科専門医 / 美容外科(JSAPS)専門医
THE CLINIC 東京院 / BUST CLINIC / 埼玉医科大学 形成外科・美容外科
【経歴・人物】 日本専門医機構認定形成外科専門医。 現在はTHE CLINIC Tokyoにて、脂肪吸引・脂肪注入を中心としたボディデザイン診療を行う。
医師として臨床現場に立つ傍ら、「医学的に正確で、患者様が理解しやすい医療コンテンツ」の不足に課題を感じ、曖昧なネット情報に惑わされる患者様を減らすため、医学論文(一次情報)に基づいたエビデンスベースの発信を徹底している。
【保有資格・所属学会】
- 日本形成外科学会認定 形成外科専門医
- 日本美容外科学会(JSAPS)専門医
- VASER認定医
【専門分野】
- 形成外科全般
- 脂肪吸引・脂肪注入(豊胸・エイジングケア)
- 医療ダイエット・肥満症治療管理
- 医療論文解説
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