「長年連れ添ったシリコンインプラントを外したいけれど、外した後のバストの萎縮やたるみが怖い……」 このような不安を抱えている女性は少なくありません。事実、インプラントを単に抜去するだけでは、皮膚の余りや左右差が顕在化し、審美的な満足度が低下する課題がありました。
そこで現在、インプラント抜去と同時に自家脂肪を注入するSIEF(Simultaneous Implant Exchange with Fat)という手法を取り入れています。本記事では、2,000例を超える実績を持つ当院の知見と、国内外の最新論文に基づき、この手術のメカニズムからリスク、術後の経過までを専門医が詳しく解説します。
ただし、誰にでも一律に適用できるわけではなく、事前の精密な診断が不可欠です。
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なぜインプラント抜去後の脂肪注入が難しいのか
インプラントを長期間挿入していると、体内の反応としてインプラントの周囲に被膜(カプセル)が形成されます。この被膜は、抜去後も腔(スペース)として残存しますが、この腔内は血流が乏しく、脂肪を直接注入しても生着せず、脂肪壊死やしこりの原因となります。
適応について
手術にあたって、エコーを用いた術前の詳細な評価が必要です。適応としては
①被膜拘縮が高度ではなく・石灰化が少ない
②皮下組織などの注入層に脂肪注入するだけの厚みがある
③脂肪が採取できる(可能であれば2回分の豊胸分が確保できる)
などが挙げられます。
解剖学的背景と手技の工夫
私が採用している手法は、このリスクの高い抜去後の空洞を避け、血流の豊富な被膜周囲の組織や大胸筋、皮下組織に脂肪を分散して注入する「多層的・分層的注入」です。
- 被膜の温存と血流活用: 被膜は血流が豊富で容易に出血します。悪性腫瘍などの医学的必要性がない限り、合併症リスクを高める被膜全切除は避け、被膜外側の豊富な血流を利用して脂肪を生着させます。
- 低圧吸引と精製: 採取時の圧力を0.5気圧以下に抑えて脂肪細胞の損傷を防ぎ(低圧吸引)、加重遠心分離によって不純物を取り除いた良質な脂肪のみを使用します。
- 腔内への迷入防止: 注入中は常に指でカニューレの位置を確認し、腔内に脂肪が漏れ出さないよう細心の注意を払います。その後しっかり内腔を確認し、よく洗浄することで、インプラントが入っていた腔内にしこりができるリスクを最小限にします。
術後の保存的対応とケアの限界
術後の結果を最大化するためには、医学的根拠に基づいたセルフケアが重要です。
- サポート力の適切な下着: 術後3ヶ月間は、剪断応力(組織がずれる力)を避けつつ、血流を阻害しない程度のサポート力がある下着の着用を推奨しています。剪断応力がかかる1番の原因は胸がおおきく上下に揺れることです。
- 体重管理: 注入脂肪の維持には体重変化が大きく関与します。少なくとも術後3ヶ月間は、体重を減らさないような生活指導を行います。3ヶ月以内の体重減少は優位に定着率が下がります。
- マッサージの注意: 自己判断での強いマッサージは、せっかく生着しようとしている脂肪の生着率を下げたり、内部で出血を引き起こしたりするリスクがあるため、必ず医師の指示に従ってください。
修正治療や追加介入が必要になるケース
すべての症例が一度の手術で完結するわけではありません。以下のような場合は、追加の処置や段階的な治療が必要になります。
- 被膜内漿液腫(セローマ): 抜去後の空洞に液体が貯留する状態で、当院のデータでは7.4%に認められました。多くは自然吸収されますが、持続する場合は穿刺(針で吸い出す)が必要になります。
- 高度な皮膚の弛み・変形: 巨大なインプラントが入っていた場合や、複数回の手術で組織が損傷している場合、一度の脂肪注入では形を整えきれないことがあります。この場合、無理な大量注入は脂肪壊死を招くため、「段階的脂肪注入(複数回に分ける手法)」が推奨されます。
- 感染・血腫: 急激な腫れや痛み、発熱を伴う場合は、早急な受診が必要です。血腫(1.1%)が発生した場合は、再度腔内を確認して止血処置を行う必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. インプラントを抜くのと、脂肪を入れるのは別々の方が良いですか? 当院では同時手術(SIEF)を推奨しています。被膜を直接、または指で確認しながら最適な層に脂肪を注入できるため、腔内への誤注入を防ぎ、安全性を高められるからです。
Q2. 脂肪注入だけで以前と同じサイズに戻せますか? インプラントと同じ体積を一度の脂肪注入で補うことは、脂肪の生着率の観点から難しい場合があります。ただし、多層注入により、不自然な異物感を解消しつつ、自然なボリューム感を維持することが可能です。
Q3. しこり(脂肪壊死)ができるのが心配です。 最新の技術では、脂肪を米粒状(ヌードル状)に極少量ずつ分散して注入することで、しこりのリスクを大幅に低減しています。当院の最近の94例では、大きな結節は一例も報告されていません。
Q4. 被膜は全部取らなくていいのですか? 石灰化が激しい場合や悪性腫瘍が疑われる場合を除き、基本的には温存します。被膜を無理に剥がすと出血や組織損傷のリスクが高まるため、美容目的の手術では低リスクな温存療法が選択されます。
Q5. 痩せ型ですが、脂肪注入は可能ですか? 吸引できる部位(太もも、腰、腹部など)があれば可能です。ただし、痩せ型の方は皮膚の厚みや余裕が少ないため、より精密な注入技術が求められます。状況により複数回に分けることを提案する場合もあります。
まとめ
シリコンインプラント抜去後の乳房再建において、自家脂肪注入は非常に有効な手段です。大切なのは、「被膜内という血流のない場所」を避け、自身の組織の血流を最大限に活かして脂肪を生着させることです。不安な点がある場合は、まずは超音波検査等を用いた事前の正確な評価を受けることが、納得のいく結果への第一歩となります。
参考文献
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この記事を書いた人
吉田 有希(Yuuki Yoshida) 形成外科専門医 / 美容外科(JSAPS)専門医
THE CLINIC 東京院 / BUST CLINIC / 埼玉医科大学 形成外科・美容外科
【経歴・人物】 日本専門医機構認定形成外科専門医。 現在はTHE CLINIC Tokyoにて、脂肪吸引・脂肪注入を中心としたボディデザイン診療を行う。
医師として臨床現場に立つ傍ら、「医学的に正確で、患者様が理解しやすい医療コンテンツ」の不足に課題を感じ、曖昧なネット情報に惑わされる患者様を減らすため、医学論文(一次情報)に基づいたエビデンスベースの発信を徹底している。
【保有資格・所属学会】
- 日本専門医機構認定 形成外科専門医
- 日本美容外科学会(JSAPS)専門医
- VASER認定医
【専門分野】
- 形成外科全般
- 脂肪吸引・脂肪注入(豊胸・エイジングケア)
- 医療ダイエット・肥満症治療管理
- 医療論文解説
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